【完】ボクと風俗嬢と琴の音

「おつかれー」


「おつかれさまです…」


一本にしばっていた髪をほどいて
さらさらの長い黒髪を振り乱して
フーっと今までにないほどに大きな息を吐きながら、ジョッキのビールを飲み干した。



苦手だし
何かいたたまれない気分になるし
気ばっか使ってしまいそうになるけど



自分が苦手意識を持っている人間だって話せば分かるって考えが心の片隅で芽生え始めたのは最近の出来事。
そこで、琴子の存在は大きかった。
彼女は破天荒で、常識なんて通用しなくて、野良猫みたいに自由に生きてるのに
自分とは全く正反対の世界線にいたはずなのに…
彼女と過ごす時間は自分が想像していたよりもずっと楽しくて、笑っている時間が多くなったのに気づく。
だから人の上辺だけを見て判断するのは、もう止めようと思っていた。



「木村さんは…本当にお酒が強いですよね…
接待の席でも全然酔っぱらわないし…」


「いやいや、あたしはそんなに強くないよ。
仕事の席では気を張ってるからかな?
ホテル戻ったらドッと酔いが回る。
そう考えれば、井上は酒が強いよな?」


「いやいや、自分は酒すげー弱いっす…。
木村さんと同じで仕事の席では緊張しっぱなしっすから…
けど木村さんでも気を張ってたりするんですね…。同じ人間ですね」


「ぷっ!何それ!
あんたあたしを何だと思ってんの?」



木村さんが小さく笑った。
それを見て、驚き。
仕事でもそれ以外でもこの人がそんな風に気を緩めて笑う顔なんて初めて見た気がする。
やっぱ笑えば普通の女性だな…。



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