【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「琴音ぇー」
抱きしめると良い香り。
お日様みたいな、柔軟剤の香り。
どんな香水より、この匂いが好きだった。
強く抱きしめると「やめろ」とでも言うように靴下になってる真っ白の前足を俺の顔へと押し付けた。
でも室内は、シンとしていた。
琴音を抱きあげてリビングへと入っていく。
それでも静まり返っていた。
’仕事、か’
琴子の事だ。
居たら大騒ぎでぴーぴーぎゃーぎゃー話をかけてくるに違いない。
クーラーの効いた涼しい空間の中で
リビングのテーブルには開きっぱなしのお菓子の残り
ペットボトルのジュースは蓋もしないまま空けられていて
少しだけ散らかっている。でも許容範囲内。結構しっかり掃除はしてくれてたみたいだ。
「あぁー!でもあいつ何でお菓子だしっぱなんだよ?!
ジュースも飲んだら蓋しめろって何回も言ってたのに!!」
俺の独り言が部屋に響く。
キッチンに行ったら、コップが何個か出しっぱなしの状態で水に浮かんでいた。
「あーーーーー!!!!
だから使ったら洗えばためなくても済むのにさ!!!」
ひとりでブツブツ言いながら洗い物。
でもたった1週間なのに、そんな事が懐かしく感じる。
がちゃん、玄関から物音がして
俺へとすり寄っていた琴音が慌てて走っていく。
「あれー?ハル帰ってるのぉ~?」
玄関の方から、惚けたような琴子の声が聞こえてくる。
そしてキッチンで洗い物をしている俺を見て
目を細めて、琴子は満面の笑みを作った。
その笑顔を見て、何故かホッとした。