【完】ボクと風俗嬢と琴の音
ズキン。
何故か少し胸が痛くなった。
…これは煙草の吸いすぎかもしれない。
自分にそう言い聞かせて
そんな自分の感情なんてかき消して
バックを振り回しながら、ハルの少し先を歩く。
足の長いハルはわたしなんかよりずっと早く歩けるのに
一緒に歩く時わたしの歩幅に合わせてくれていたのに気づいたのは、いつからだったのだろう。
それは特別なんかじゃないって
誰と居たって同じ事をする優しい人だって
バックを高く掲げたら、貰ったたこ焼きキーホルダーが太陽の光に当たってキラキラと光った。
お土産はたこ焼きキーホルダーね!なんて冗談を律義に覚えていて、買ってきてくれた。
恐らく誰にでも見せるその優しさが嬉しかったのに、ほんの少しだけ痛かったのは何故かな?
ハルが出張だった1週間。
琴音と過ごす、柔らかくて静かな時間。
それはそれで楽しいし、癒される時間だったのだけど
ハルが帰ってきた瞬間
まるで空気が一変したように、ハルの顔を見た瞬間嬉しかったんだ。
これって可笑しい感情だったのかな?
わたしはまだ、この感情の名前を知らなかった。