【完】ボクと風俗嬢と琴の音

「優しい人ですよね、井上さん」


垂れ下がった瞳で
微笑みかけてくる姿は
天使そのもの。

あぁ、なんて見れば見るほど可愛いんだろう。

華奢な体も、真っ白な肌も、大きな瞳も
ぼんやりと見とれていると、彼女は口元を手で押さえて、また笑った。
シンプルな爪先だけ白い清潔感のあるネイルがこれまた彼女に似合っている。



そういえば今日朝
琴子が「ネイル変えたのーー!!ちょー上がるーー!」と爪を見せてきた。
秋使用だよっ!とはしゃぐ彼女の指先は深いボルドーで、ラインストーンがキラキラと光っていた。
ごちゃごちゃして煩わしい、と言ったら頬を膨らませて女心が分かっていない!と文句を言われた。



「綺麗ですね」


「え?」


「爪。」


そう言ったら彼女は自分の爪先を見て、照れくさそうに笑った。
そして小声で俺にだけ聞こえるように言ったんだ。



「金曜日、楽しみにしています。
ネットで検索してみたんですけど、隠れ家的で素敵なお店ですね。
やっぱり井上さんってセンスが良いですね」


「いやぁーーーーー………」



やっぱり。って俺のどこを見てそう言ってるのかは知らない。
山岡さんが俺にどういったイメージを抱いているのかも


でも本当の俺はおしゃれなお店なんてひとつも知らない。どちらかと言えば古びた定食屋が好きな男だ。

それでも彼女が喜んでくれるのなら!!!


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