【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「だって!少し考えれば分かるでしょ!!
ムカつく!ああいう奴!」
「それでも危ないよ……。
殴られでもしたらどうすんのさ」
「大丈夫だもん!!」
ぷいっと琴子はすぐに前を向いた。
なんつーか…
優しい人間なんだよな。基本的に。
その優しさが伝わりにくい容姿をしているし、言葉遣いだって悪い。
でも、人の目を気にしないで物事をはっきりと誰かへ言える事は尊敬しているんだ。
悪い事は悪い。見て見ぬ振りをしている方が楽な場合もあるから。
その時電車が少しぐらついて、琴子の背にもたれかかるように足に力をぐっといれて耐えた。
前かがみになって、琴子のシャンプーの匂いが鼻を掠める。
包みこんでしまえば、すっぽりと腕の中におさまるような小さい体。
思わずドキドキと鼓動が速く時間を刻んでいく。
琴子にそれが伝わらないように出来るだけ体を離した。
本当に小さい。
こんな小さいのに、彼女の中にある勇気は俺よりずっと大きくて
俺は、こんな小さな車内でさえ人を助ける事を躊躇してしまう。
小さいのに、大きな存在。
一緒に暮らしていて、いつも一緒にいるのに
どうして近づくとこんなにドキドキしてしまうのだろう。
女性慣れしていないのだ。そう自分に言い聞かせて、電車が目的地に早く着く事だけを願った。