【完】ボクと風俗嬢と琴の音
8.晴人「意識している事を人は意識しない」
8.晴人「意識している事を人は意識しない」
22時半。
マンションに着いて時計に目を落としたら、そんな時間。
家へ入ると琴音は珍しく俺を出迎えなかった。
リビングからテレビの音が聞こえる。
食べかけて、少し残されたコンビニ弁当がテーブルに乱雑に置かれていて
缶ビールと缶酎ハイが転がっている。
座椅子を枕にして、化粧も落とさないで琴子がスースー寝息を立てていた。
その横で、琴音がくるりと丸まって眠っている。
俺に気づくとゆっくりと目を開けて
ふぁーと大きな欠伸をした。
音を立てずにお弁当と缶を片付けていたら
チリンチリンと琴音の首輪の鈴の音が響いて
尻尾を真っ直ぐに立てて、足元にすり寄ってくる。
しゃがみこんで「シー」と言うと、琴音は真ん丸の瞳をぱちくりさせて「ニャー」と小さく鳴いた。
そしてゆっくりと俺の部屋へと消えて行った。
時たま人間の言葉を理解しているのではないかと思ってしまう。
リビングで眠る琴子は起きる気配はない。結構飲んでいたのだろうか。珍しい。ひとりではあんまり飲まないのに。