【完】ボクと風俗嬢と琴の音

西城グループの御曹司がどんな奴かは知らないけど、立場のある人間。
普通に琴子が気に入ってるから、また呼んでもいいかって聞くんじゃないか?
それに好意がない人間にキスなんてしたりしないだろう?



モヤモヤした気持ち。


本当に言いたかった事は危ないよって事だったんだろうか。
伝えたい事はもっと別の場所にあった気がしなくともないんだけど。



俺との昨夜のキスだって
話してしまえばキスくらいって
彼女なら笑い飛ばしてしまうんだろう。
意識してるのが自分だけで、馬鹿らしくなるよ。




「ねー、ねー、ハル。
今日良い天気だから琴音の事外に出してみない?」


「あ!いいなぁ!公園でも行こうか!」


「涼しくなってきて良い季節だよね。
お弁当でも持っていこうか?」


「あー!!いいねぇ!あたしも作る!!」


「作れんの?」


「おにぎりくらいは握れるよ!」


「それ作ってるうちに入らない」


「なによー」


もう、って言って頬を膨らませる琴子。
そうか、もう涼しい季節になってしまったんだな。


うだる暑さの日は少しずつなくなっていって本格的な秋模様。
そして秋が終われば当たり前に冬がやってくる。
なんて時間はあっという間に過ぎていくのだろうか。


当たり前にふたりで笑いあう時間が続いていくと思っていた。
でも無限の物なんてこの世界を探してもどこにもなくて

1年過ぎれば、また他人に戻るだけ。
前の、普通の生活に戻るだけ。
それを想像したら、少しだけ寂しくなった。




どうしてあの頃は、この時間がずっと続くなんて
思ってしまったんだろう。

当たり前に来るいつかの別れの日を思ったけど
それは頭の中で無理やりかき消した。


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