【完】ボクと風俗嬢と琴の音
おいおいふたりの世界かよ。
ハルと顔を見合わせてアイコンタクトを取って
そっと自分たちの飲み代をテーブルに置いて、お店を出た。
なんなん、一体。
平日だというのに歌舞伎町は人でごった返していた。
ここで遊ぶ頻度はぐっと少なくなっていって
けどわたしひとりが消えたところで、この街の喧騒は消えやしない。
そう考えればちっぽけな存在で
明日わたしが消えても、街は何ら変わらない光景を日々刻んでく。
「びっくりしたぁー」
「いや、それはこっちの台詞。
まさか会うとは思わなかったし。
他人の振りって結構難しいなー」
「思わず無口になっちゃったよ…」
「琴子は話せばボロが出るからなぁー」
「何よぉーーーー!」
少し肌寒くなってきた秋の夜空。
羽織ものは持ってこなかった。
「ぶえっくしょーーー!!」
全く女らしくないくしゃみをしたら、ハルは空に向かって大笑いした。
そして着ていたスーツのジャケットをそっと体へかけてくれた。
「いいよ。ハル寒いでしょう?」
「全然北海道出身だから寒くないよ」
「そう…ありがとう…」
ぶかぶかのハルのスーツのジャケット。
すっぽりとおさまってしまう体から、僅かにハルの匂いがした。
金木犀の香りと、ハルの香り混ざり合って
思わず時間の流れの速さを感じた。