【完】ボクと風俗嬢と琴の音

ロングコース。
大輝は持ち込んだパソコンで仕事をずっとしている日もあって
わたしはわたしで自由な時間を過ごせる。
話せば止まらない日もあれば、全く話さない日もある。
大輝のプライベートなんて知らないし、大輝だってデリヘル嬢であるココのわたししか知らない。



けれどたまに酷く疲れているようにも思える。そんな日は何も言わず空気のように同じ時間を過ごす。
琴音がわたしにくれる時間のように。
次期社長。御曹司。彼は彼なりに、わたしには分からない悩みを抱えているのだろう。一般庶民には到底知りえないような。



友達である店長が「金持ちの道楽だ」と言っていたから
黙ってそれに付き合っておく。
だってラッキーだし、楽だし、疲れもしないし
飽きたらいなくなる。呼ばれなくなる。
出会いと別れが連続する仕事なら、なおさら。




「じゃね!今日はありがとーございましたぁー」


「琴子」


「ん?」




大輝はわたしを琴子と呼ぶ。
お客さんに本名を教える事なんて滅多にない。
けれど余りにもしつこいもんだから、教えた。
わたしも大輝と呼べと命令されたから、遠慮せずに大輝と呼ばせてもらっている。


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