【完】ボクと風俗嬢と琴の音


「あーーー!はるひ…井上さんおつかれさまですー!」


「あぁおつかれさま」


「今からお昼ですか?
良かったらランチ一緒にしません?」




翌日
会社の昼休憩に山岡さんと会った。

会社の制服を着て、長い髪を後ろでひとつ結びしている。
今日も笑顔が完璧な人。
大きな目が少し細くなって、小さな口元は口角が上がっていて
少しだけ首を傾げて微笑む。



「これから打ち合わせが入っていて…
すいません」



咄嗟に嘘をついた。
だってランチだし、俺は家から持参きたお弁当だし
男が手作り弁当を家から持ってきているなんて知ったらかっこ悪いって思われるかもしれないし
なんて体裁ばかりを気にしていた。



「ちぇ……」


山岡さんは分かりやすいくらい大袈裟に拗ねた振りをして
すぐにいつもの笑顔に戻った。


「早く12月にならないかなぁ~って
楽しみですねっ」



少し背伸びして耳元でそう囁いて
手を振って彼女は小走りで会社の外へと出て行った。
フローラルの香りが風に舞っていた。


そもそもの話なんだが
俺はこの人が好きなのだろうか。
好きとは、いかに?



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