【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「いえ、別に」
「琴子から、事情は聞いてます」
コーヒーカップに口をつけながら、西城さんは静かに言った。
事情?
何の?
琴子をじろりと見ると、焦ったように手をぶんぶんと横に振った。
「同居人とはいえ
女性と男性が一つ屋根の下で一緒に暮らすというのはどうかと」
「あなたに…関係のある話ではないと思いますけど?」
口元は笑っているけど、ピクリと眉間の皺が動いたのを見逃さなかった。
「僕は彼女に家を用意しようと考えてまして」
「はぁ?」
「都内のタワーマンションを
少なくともこんな小さなマンションよりかは暮らしやすいかと」
「大輝!その話は断ったやん!」
「琴子は黙っててくれない?
おふたりは事情があって一緒に暮らしているとの事ですが
突然出ていかれて井上さんが困るのであると言うのならば
琴子の分は僕が持ちますし
それならば何ら問題はないですよね?」
問題は………
確かに家賃の事だったけれど――――
この人が半額出してくれると言うのであれば
琴音と暮らすこのマンションを維持していけるのであれば
何の問題も、初めは無かったはずなんだが……