【完】ボクと風俗嬢と琴の音
ちらりと見た木村さんのお弁当。意外にラブリー。卵焼きでハートを作っている。やっぱり女性だなぁ。
「失いそうでは…あるかな?」
その言葉に、意外そうに木村さんは顔を上げた。
いや
失う、というのはまたちょっと違うか。
初めから、手に入れていた物でも何でもないわけだし
「何あんた、受付のお花畑ちゃんと上手くいってないの?」
「ぶっ、お花畑ちゃん?」
それは、や、山岡さんの事なのだろうか。
木村さんは悪い笑顔を浮かべて言った。
「きゃっきゃしててふわふわしてて
綺麗で若くてお花畑みたいな子」
「ああ、なるほど」
お花。お花だよなぁ、山岡さんは。
「綺麗な花には棘があるって言うからな。
企画の早瀬が飲み会でワーワー喚いていたよ。
何であんな冴えない奴にー山岡さんはーってぇ」
「あぁ早瀬。俺ずっと大学時代からあいつには目の敵にされてるんですよ。
まぁ何かあいつが俺を気にくわないのは、何となく分かる」
30人以上いた新卒の総合職の中で
早瀬はきっと営業に来たかったに違いない。
しかし配属されたのは、俺。
うちのようなお菓子メーカーは、営業が花形。出世にも1番近いと言われている。
何で俺じゃなくて、お前が。言いたくなる気持ちも分かる。早瀬の方が実際バリバリ仕事もこなす奴だし。
けれど新入社員は9割営業に回されると言うのに、早瀬は新入社員が行かないであろう部署に異例で抜擢された。
どうして俺に突っかかる理由があると言うのだろう。