【完】ボクと風俗嬢と琴の音



シチューを温めながら、琴子はリビングで映画の再生ボタンを押す。

ぐつぐつと煮だってくるシチュー。
冬はやっぱりシチューだよなぁと思いながら
それならば夏はカレーだ。
でも今年の夏は余りカレーを作れなかった気がする。
来年の夏は沢山作ろう。
琴子、きっと喜んでくれるだろう。
来年はいっぱい作ろう。





そんな事を考えた後、ハッとしてしまった。



「ハル~?シチュー焦げてなぁ~い?」


どうして来年の夏も一緒にいれるなんて思えたんだろう。


「うま。シチューうっまぁー!ちょっと焦げてるけども
うっまぁ~。なんでハルの料理って優しい味がするんだろぉ~…」


「焦げ……ごめ…」


「でもいーのですー。ハルの料理は世界で1番美味しい」



並び合う座椅子。
琴子はシチューをすくいながら、画面を見つめていた。
映画の中でキアヌ・リーヴスとジュリアロバーツが出会うシーンだった。



「キアヌリーブスかっこよ」

琴子は頬杖をつきながら、画面の中のヒーローに夢中になっていた。

「ジュリアロバーツも綺麗」

俺がそう言ったら、こちらを向いてうんうんと何度も頷いた。

「…この映画の中のジュリアロバーツ、琴子の笑顔に似てる」




< 310 / 611 >

この作品をシェア

pagetop