【完】ボクと風俗嬢と琴の音
ふっと笑いがこみ上げる。
あの時大輝とそういう事になってもいっかなぁ~と思っていた。
都内のタワーマンションで、東京タワーを見つめながら
新しい猫を飼って穏やかに暮らすのも悪くないかなって、本気で思った。
ハルの名前が出されるまで…。
そしてわたしは、あの人を傷つけた。
「…ココ、あいつは優しいやつなんだ」
「…知ってるよ」
知ってる。
きっと知ってる。
不器用で不愛想で
分かりずらくて、きっといいやつ。あの人は
電話を切って、携帯を再びテーブルの上へ置いた。
琴音がコタツから顔を出して、わたしへとゴロゴロとすり寄り
そして胸の中で丸まった。
わたしは優しく琴音を抱きしめた。
新しい猫、なんて言ってゴメンね。代わりなんて居ないのに、ゴメンね。
まどろみの中で、深い眠りへとつこうと思った時再びテーブルに置いてあった携帯が鳴り響く。
…店長、しつこい。クリスマスなのに、絶対に次はマナーモードにして寝よう。
画面さえも見ずに電話に出た。
「てんちょー…しつこ…今あたし…眠る…ところ」
「誕生日に眠ってるだけなんて可哀想な女だな」
あぁこの声。この態度。
クリスマスの休日にわたしに電話するあんたもよっぽど可哀想な奴だよ。