【完】ボクと風俗嬢と琴の音
’あいつは優しいやつなんだ’
知ってる。
知ってるよ。
誕生日。ひとりぼっちで過ごしているって知ってるわたしに
電話をしてきてくれるくらいは良い人。
だってわたし、大輝の事嫌いじゃないもの。
電話の先の声は、とても優しいものだったもの。
’21歳の誕生日おめでとう’
優しい言葉。
その言葉と共にわたしは再び眠りに落ちた。
夢の中で
わたしはハルと琴音と笑っている。
この家で
それはいつもと変わりのない日常で
とても自然なもので
柔らかく温もりに溢れていて
ずっと探していたような
どこにでもありふれた日常。
わたしは死んでも口に出さないだろう。
自分の想いを、ハルへの気持ちを
当たり前のように見えた日常を、当たり前に失う日まで
この一緒に過ごせる宝物のような時間を壊してしまわないように
そこに確かに存在するであろう、ハルと琴音と過ごすこの1年間の思い出が壊れないように
きっと去り行くその日でさえ、わたしはこの気持ちを絶対に言わない。
それが、わたしの愛だと思った。