【完】ボクと風俗嬢と琴の音


山岡さんの大きな瞳から、また涙が零れ落ちた。
俺は最低な人間だ。


クリスマス色に染まり行く街並みは、誰もが笑っていて、でもこの世界に涙を落としている人もいるということ。
涙を落としている人間を独りにしてきたのも自分で
誰一人幸せにしてやれない、小さな男も自分

立ち止まったケーキ屋に入った。
クリスマスケーキがショーウィンドウにカラフルに並べられていた。


「クリスマスケーキですか?」

目があった店員はサンタ帽を被って、にこにこしながら問いかけた。

「いえ、誕生日ケーキを…
誕生日ケーキとクリスマスケーキを…ふたつ
下さい…
チーズケーキと…カスタードクリームの…」




琴子は甘いものがあまり好きじゃない。

けれどチーズケーキとカスタードは好きだと言った。

プレゼントなんて欲しい物はない。ときっぱり言い切ってしまったので
何も買ってあげられる事は出来なかった。
だからってケーキ2個はないだろ。ホールケーキ2個はどう考えても食べきれないだろう。

でも今は、琴子の喜ぶもの
考える気力さえない。
それを考えてしまったら、さっきの山岡さんの泣き顔が浮かんできてしまうから



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