【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「お前ッ…ふざけんなッ!」
この人生において、理性を失くし人を殴ったのは生まれて初めてだった。
きゃあ、と山岡さんの悲鳴が響いて
優弥が止めに入る。
下らない男。馬鹿な男。
けれど
俺だってこいつと同じくらい、下らなくて馬鹿な男だ。
いや、こいつよりマシだって言えないくらいの大馬鹿男だ。
「はぁーお前何やってんの?」
「大丈夫?晴人くん。口から血が、待って今絆創膏」
「あ、大丈夫だよ、こんくらい。
つーか飲み会の雰囲気壊しちゃってゴメン」
俺と優弥と山岡さん。
3人で飲み会を抜け出して、夜もやっているカフェへ入った。
「あれはゲスな事を言った早瀬が悪い。
けれど世間一般的に見れば、喧嘩は先に手を出した方の負けだ。
お前は馬鹿だ」
「ちょっと、そんな言い方」
山岡さんは俺の口元に絆創膏を貼ってくれた。
「ほんとー…馬鹿だよー…お前はよぉー…
何がぁー月だぁー…
手に届かない人間なんているわきゃーないだろー…」
少し酒の入っている優弥は
カフェのコーヒーを両手で握りしめて切ない顔をした。
「あ」
その時一緒にいた山岡さんが視線をどこかへ移した。
そこには今、1番会いたくない人物がコーヒーを持って立っていた。