【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「そりゃ親だからな。心配もしてただろ」
「家出同然で東京に来たけん
怒っとるかなーって思っとったんやけど
新しい家の保証人になってていうたら、全然ええよーってあっけらかんとしとった」
鯖をつつく箸がぴたりと止まる。
一瞬言葉を忘れそうになる。
ショックな時に言葉が出ないって、こういう事を言うのだろうな。
そんなに具体的に考えていたのか。
いや、元々そういう契約ではあったんだけど
あぁそうか、もう2月も終わる。
暖かい日が増えてきて、春はもうそこまで来ている。
時間は着々と流れているのだと、痛感する。
笑顔の琴子に、その笑顔を崩して欲しくないから、俺は無理やりに笑顔を作ったんだ。
「そっかぁ!良かったな」
「最近は料理も好きになってきたし、掃除もあんなに大嫌いだったのに
お金も貯めれて、ハルと暮らしたお陰だと思う。独り立ちしてやっていけそうなのは全部全部ハルのおかげやん」
「俺は…何も…」
琴子が元々しっかりしていただけの事。
俺は何もしていない。
それは、彼女の中に元々持っていたものだという事。
そんな門出には、笑って送り出さなきゃいけない。そうであらねばいけない。
だから俺は、琴子が前を向いて進んでいくことを笑って応援していく。そう決めたんだ。
何度も何度もそうやって自分に言い聞かせる。