【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「いいじゃん。少しくらい甘えたって」
駄目だ。甘えんな。自分の事は自分で何とかしろ。
心とは正反対の言葉が、口をついて出る。
人間とは矛盾した生き物だ。
「やだよ。それで恩着せられるのも嫌だし。
まぁー大輝は恩を着せるような人間じゃないけどさぁ」
お金持ちで、性格も良いなんてそうそうある物件じゃないだろ。
どうして琴子は、西城さんと付き合わないんだろう。
それはずっと抱えていた疑問だ。
「なんかそれでもやだ。
あたしは自分の足で独り立ちするって決めてるんだから、それを誰かの援助なんて受けてしまったらひとりで立ってない気がする。
あたしって基本だらしない奴だから、そーいうのに甘えちゃったら全部甘えちゃえーってダメ人間に戻ってしまいそうだし」
あぁ、そういう所も好きになったのかもしれないな。
だらしなくなんかない。きちんと自分を持っている。
自分で決めた事は突き通そうとする、意思の強さにも
きっと惹かれていた。
「それに全然贅沢じゃなくたっていいんだ。
狭くても構わないし、古くても…太陽の光りがあたって、暖かい場所なら
どこでもいい」
このまま一緒に暮らそうと言ったら
彼女はどんな顔をするんだろう。
絶対に言えない言葉を、心の中で思いながら、俺は彼女の話を笑って聞く。