【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「皆さん、なんか空気悪くしちゃってごめんなさい。
あ、西城さんわたしは電車で帰るので大丈夫です!
じゃあ失礼しました!」
ぺこりと頭を下げて、山岡さんはその場から去って行った。
行かないで。言葉には出せなかった本音。
けど知ってたの、ハルは優しい人だからきっと追いかけるって。
ハルはわたしにだって誰にだって、優しい人だから
そういうところが大好きだったけど、今は大嫌いなの。
「ちょっとー…琴子…
アレはないよ…」
ユカリが心配そうに来て、わたしの背中をさする。
「ちょーちょっと!俺山岡さんと晴人の事追いかけてくるーーー!」
「琴子ー?大丈夫ー?」
皆に気を使わせてバカみたいだ。
自分の馬鹿さ加減に涙も出やしないよ。
何ひとりで勝手に嫉妬して怒って、周りの空気まで悪くしてんだよ。
地雷女かよ。
「別にクソ女の味方するわけじゃないけど
自分の気持ちを伝えずに逃げているお前が
あいつに八つ当たりする資格はねぇぞ」
「西城さん……でもさ、琴子は…」
「お前の事情なんて知らん。
何に劣等感抱えてるかなんて関係ねぇ。
俺はお前の事は好きだけど、そういうお前は嫌いだ」
あぁごもっとも。
正論だ。
胸が痛くなる程正論だよ、大輝。
わたしは馬鹿女。港区とか、そういうんじゃなくて
ただの馬鹿女。
どこにも価値のない、ただの馬鹿女だ。