【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「こら、琴音。
そこにのぼっちゃあ駄目だろう」
そう言うとプイっと顔を背けて、軽々とジャンプして床へと着地した。
それでもグラノーラの器を手に持つ俺をジーっと凝視してきた。
はぁ。
何だよ、お前まで俺を責めると言うのか?
大体お前は俺の猫だと言うのに、最近は琴子ばかりに懐いて
どっちを飼い主だと思っているのだ?!
女心と秋の空、ならぬ女心と猫の空ってか?
いや、今春だけどさ。
戸棚からチュールを取り出して、それを振って琴音へ見せると
さっきとは打って変わり目をキラキラと輝かせて、こちらへと甘い声を出しながら寄ってくる。
なんつー単純な生き物だ。
俺の手からチュールを貰う琴音はまるで「ありがとうございますありがとうございます」とやけに低姿勢で
琴子も琴音みたいに物で釣れたらいいのに、なんて最低な考えまで浮かび上がる始末で
物で釣れるのならば
琴子の好きな物1年分でも買い占めて
一緒にいれる期間を延長して
ずっと傍らで笑ってもらうのに。
でも琴子を繋ぎとめる物なんて、俺は知らないし。
5本入り、198円で買える幸せを琴音は噛みしめて、もうナイよって言ったら「あっそー」って素振りでリビングへゆっくりと戻って行った。