【完】ボクと風俗嬢と琴の音

再び閉め切ってしまった扉。
それを少しだけ見つめて、大きなため息を吐きながらグラノーラをリビングまで運ぶ。
美味しくねぇ。けれど朝ご飯を食べないと仕事のやる気も出ないし、無理やりに口に運んでいく。
口の中で咀嚼をしていっても、味は全くしない。


気まずくなるのも
喧嘩をするのも嫌だ。
出来る事ならば、笑って過ごしていたい。
何度も思ってきた事であるのだけど、今回は絶対に謝らない。


こんなに頑なな人間だったろうか。でも嫌なんだ。
出会ったばかりの頃に琴子に言われた言葉を思い返していた。



’あなたって自分が悪くなくても謝っておけばその場が収ればいいやって思ってるタイプでしょ’



今までの自分は確かにそうだった。
でもさ、今回はどれだけ考えても、自分は悪くないって思うんだ。
いや、そりゃ山岡さんを勝手に家にいれようとした事は同居条件の約束を破ってるけどさ。



それにしたって、あの日の琴子は
その前からずっと機嫌が悪くって
周りは皆気を使っていて、そんな風に周囲に気を遣わせる琴子を見てイライラしていたのは事実で
ここで謝ってその場を抑える事は簡単だけど、それじゃあ互いにしこりが残ってしまうのは目に見えている事だ。


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