【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「ただいまー」
シーンと静まり返った空間の中で
チリンチリンと琴音の鈴の音だけが響いて
ニャーといつものように甘えて、肩にぴょんっと飛び乗ってきた。
大きくなったなぁ、と肩のずしりとした重みを感じて思う。
玄関とリビングの電気をつけたら薄ら寒い空気が通り過ぎて行って
出しっぱなしのこたつに目をやる。
そろそろしまわないとなぁ、と思いながらも琴音のお気に入りで中々しまえずにいた。
「今夜は事務所に泊まります」
テーブルの上に書きなぐったような文字で紙の切れ端にそう書かれたメモが残っていた。
前回の喧嘩のように無断で家を空けたり、言葉ひとつ交わさない、なんて事はなかったけど
今どきメモかよっ!とつっこみはおいといて
ラインだって電話だって想いを伝える術は沢山ある。
それをあえてメモとは………。
家を出る前に琴音のご飯と水を変えていった形跡はある。
猫トイレも綺麗に掃除されていた。
こういう事も初めは全くしなかったのに、成長したなぁ~。って俺、何で上から目線だったのだろう。
でも琴子は料理も頑張っているし、整理整頓も出来るようになって、もうとっくにひとりで暮らしていけるんだ。