【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「あぁ頼むわ、じゃあな」
電話を切ったのと同時に店長はソファーへとどかりと腰をおろした。
店長の耳元で「勝手に居場所を教えるなー!」と嘆いたけれど、もう後の祭り。
「話は大輝に聞いてもらえ、俺は仕事に戻る」
大輝に聞いてもらえって…。
その大輝とだって顔を合わせるのが気まずいというのに。
数日前
さすがの大輝にだってうんざりされただろう。
お花見の日。
あれはただの子供染みた嫉妬にしか過ぎなくて
山岡さんは何ひとつ悪くなかったのに暴言を吐いて、結果彼女を傷つけた。
初めてきちんと向き合った山岡さんは、わたしの想像していた女性よりもずっと素敵な人で、SNS通りの嫌な女だったらわたしはまだ笑えていたかもしれない。
でも彼女は思っていたよりもずっと綺麗で、親しみやすくて、それでいて清い女性に、わたしの目には映った。
それが許せなかった。
優しくありたかったのに
誰にも汚い自分を見せたくなかったのに
自分と彼女を勝手に比べて、落胆して、そして傷つけた。
たとえ彼女が過去に男漁りをするような軽薄な女性だったとしても、それが何だというのだ。
わたしにだって消したい過去はいっぱいある。過去だけじゃなくて、現在進行形で風俗嬢のわたしが、だ。
彼女が過去にどういった人間であっても、あの日ハルを見つめていた瞳の真っ直ぐさには嘘偽りなどなかった。
だから余計にそれが痛くて、ハルを取られたくないって。
そもそも最初からハルはわたしの物でも何でもなかったのに………。
一緒にいる未来は見えない。それならばせめて、ハルの幸せを願えるくらい優しい女の子になりたいのに…。