【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「おい、家出娘がよぉ?」
我が物顔で事務所に入ってきた大輝は、ソファーでタオルケットに丸まるわたしの首根っこをまるで猫のように掴み
「虐待だよ!」と思わず叫んで、ゆっくりとソファーにおろされたかと思えば、無理やり手を掴んで歩き出した。
店長は顔も見ずに雑誌を読みながら、手だけひらひらとこちらへ向けた。
「裏切者ぉーーーーッ」
車に乗せられたら、大輝はすぐに車のアクセルを踏み猛スピードで走り出した。
ユカリは厳しい言葉をかけながらも、慰めてくれた。
優弥さんはひたすらに優しくて、この人が周囲からムードメーカーと言われる意味がよく分かった。
それでも悪い事は悪いとはっきりと言ってくれるユカリには感謝をしたいし
それは言いすぎだよぉ、とユカリに睨まれながらもかばってくれた優弥さんとは友達になれて本当に良かったと思った。
けれど、大輝は
あの時初めて軽蔑の眼差しを向けて
「嫌いだ」とはっきりと言いきった。
それが大輝なりの優しさだって分かってた。
だからこそ、そこまで優しかった大輝にああまで言わせた自分を恥じた。
優しかった大輝の瞳を曇らせた。合わせる顔はないと思った。
無言で車を走らせる大輝の横顔をそぉーっと覗き込む。
いつも不機嫌そうではあるけれど、それ以上に怒りが滲んでいるようにも見える。
ヒィッ、怖ッ。
けれど…
初めて本気でわたしへ怒りを向けた
ハルの哀れみにも似た怒りの表情。
あの時の方が全然怖かったし、ショックだった。