【完】ボクと風俗嬢と琴の音

そうだよ。
気持ちを伝えてハルを困らせるくらいなら
ずっとこのまんまでいい。
わたしみたいな風俗嬢に好かれて、きっとハルは困る。
かといってハルは優しい人だからストレートに傷つける言葉なんて吐けない。
気を使って、それでもゆっくりとわたしから離れていくだろう。



「関係なんて、ぶっ壊しちまえよ」


意外にも可笑しそうに大輝は笑った。
いや、だから何度も関係を壊したくないって言ったはずなんだけど。


「付き合うにしろ、付き合わないにしろ
結局何かを壊さなきゃ新しい関係は生まれない。
それならばぶっ壊しちまえばいい。その方がずっとお前らしい」


「簡単に言わないでよッ。
あたしは大輝が思ってるような人間じゃない。
大体お前らしいって何よ、あたしの事なんてこれっぽちも分かっちゃいないくせに
あたしはね…すっごく汚い人間なの。風俗をしてて体も汚れてりゃー心までどす黒いの。
山岡さんなんて大嫌い。あんなに可愛くて、性格だって良くて、ハルじゃなくても山岡さんの事好きになる男の人は沢山いるのに
なのに何でハルなの?何でも持ってるなら…あたしからハルを奪っていかなくたっていいじゃない。
あたしは山岡さんとハルの幸せなんか願えない
だけど……それじゃあ惨めになるからって…自分で自分を惨めにしたくないから、どんなに辛くても笑っていようって
可哀想なんて人に思われたくなかったから―――――」



そこまで言って、視界が歪んでいくのが分かった。
ぼろぼろと絶え間なく涙が流れて頬を濡らす。
それでも隣にいた大輝は、頭を数回撫でて、こんな時にばかり優しい顔をするんだ。
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