【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「琴子さんは、大丈夫ですか?」
真っ直ぐ前を向いたまま山岡さんが言う。
「あぁ、全然元気。
琴子なりに反省してるみたいで、山岡さんに謝っておいて欲しいって言ってた。
本当に嫌な想いさせて、ごめんね」
こっちを向いた山岡さんはお花のように笑って「全然」と一言だけ言った。
そしてすぐに前を向いた。
「俺を……大切な人だと言ってくれた…」
「あら?惚気ですか?
相変わらず無神経な男ね」
「や…違うんだ。
大切なお兄ちゃんみたいな存在だって
ハハ、全然恋愛対象になんか見られちゃいないってゆーオチ。
しまいにゃー山岡さんとお似合いだと思うなんて、さ。
そんなん山岡さんにだって迷惑じゃんって。
あ、着いた。じゃあね」
エレベーターが目的の階で止まって、降りようとした時
ワイシャツの裾を山岡さんが手で掴んで、下を向きながら彼女は口元を結び、頬を紅潮させる。それはピンクのチークよりずっと鮮やかだった。
シャツを掴む指先は、少しだけ震えていた。