【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「若いっていいなぁ~って思って。
アレ、受付のお花畑ちゃんでしょ?
案外井上ってモテるんだな」
「お花畑って…結構棘がありますよ。
それもいい所だと思ってるけど」
「じゃあ、いいじゃないの。
アレ逃したらそうそういい物件は見つからないと思うけどね。
井上みたいな分かりづらい男好きになってくれる人なんて中々見つからないだろう」
「それ、この間も言われました。
俺の事より木村さんも自分の恋愛どうにかしてください」
「アハハ、あたしのとこは完全脈なしだから」
「それでも好きなんですか?
木村さん黙ってたら美人なんだからその人じゃなくてもいいじゃないですか」
もう半分自暴自棄だ。前までの自分ならば、木村さんにこんな事も言えなかったはずだ。
黙ってたら美人って言葉が相当逆鱗に触れたのか、ぎろりと木村さんは俺を睨みつけた。
ヒェッ!やっぱり怖い。
「他の人じゃ、駄目なんだよ。
全然タイプでもないし、脈ナシだって分かってるのに
この人じゃなきゃ駄目だって。
きっと井上もそういう人に出会えば分かる」
それだけ言って、木村さんはエレベーターに乗り込んだ。
「もう、分かりますよ…」もう誰もいない、エレベーターの扉に向かって独り言のように呟いた。