【完】ボクと風俗嬢と琴の音
でもそんな想い君にぶつけてしまったら、軽蔑されてしまうだろう。
君の間をすり抜けていくお客さんとなんか一緒にされたくないのに、全ての欲求を吐き出してしまえば、俺なんて軽蔑していた客と同じなもんで。
そんな想いを抱えているなんて知ったら、琴子は絶対に悲しむし、俺を酷く軽蔑してしまうだろう。
自分の中の欲求をぶつける事は、君を傷つける事なんだ。
どうしてなんだろう。
風俗嬢であろうとなかろうと
琴子は俺の中で、聖域であって
汚れのないもの
汚れているのはよっぽど俺の方で
君の見ていないところで君の職業について調べたり、君へ自分の欲求をぶつけたいなど、論外だ。
「ハル~おかえり~」
そんな事を考えているとも露知らず
君は屈託のない笑顔で俺をいつだって迎えてくれるから
「ただいま~」
「ねぇ見てぇ…ハルの真似してふわふわオムライス作ろうと思っとたんやけど…
卵が固くなるとね」
琴子が見せたオムライス。
確かにふわふわではなかったけど、焦げのひとつも見当たらない黄色がぴかぴかと輝いて
くるりと実に上手にチキンライスを巻いている。
まだ出来立てなのか、湯気が少しだけ空気中に上がっていて、ほんのりと香ばしい香りがリビングにただよっていた。