【完】ボクと風俗嬢と琴の音


思い思いの時間を、ふたりリビングで過ごす。
琴子が漫画を読んでいる間、俺はパソコンを開いてネットサーファイン。琴音は1日の殆どの時間を寝て過ごすし
時たま気が付いたようにぽろっと互いに話をかけて、また思い思いの時間を過ごして、夜は更けていく。


琴子が来てから、この時間は当たり前だと思っていた。
当たり前がどれ程尊い物なのか意識し始めたのはごく最近。
永遠に続くものなど、この世にはない。
カレンダーに目をやると、もう5月半ば。
新しい家を探さないといけない。琴子はもうとっくに見つけているのかもしれないけど…
暫くこの家から、離れられそうにはないんだ。
だって思い出が多すぎる。





22時過ぎ
お菓子を片手に、琴子がゲームをしようと誘ってくる。
互いにシャワーを浴び終えていて、琴子はとっくにスッピンと眼鏡になっていた。


眉毛もねーし、目も決して大きくない。
鼻も高くはないけれど、全然可愛くない琴子が、世界で1番可愛く見えるなんてもう重症としか言いようがない。


「ねぇ、この新しく追加されたキャラ見て」


お風呂上がりの琴子の少しだけ濡れた髪から、シャンプーの匂いが鼻をふっと掠める。
顔を俺の肩付近に近づけて、携帯を見せてくる。  こんな光景、昔は意識なんかした事なかったのに…
彼女が動くたびに、胸が高鳴っていって、体温が1度高くなる錯覚に陥る。

だから、そんな無防備に近づかないでってば。


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