【完】ボクと風俗嬢と琴の音
19.琴子「あなたの未来の幸せを願う」
19.琴子「あなたの未来の幸せを願う」
「それでは、こちらには7月から入居という事で大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
1Rで築15年。
そうは余り感じられない。
日当たりは良好で、トイレとお風呂は別。キッチンも一人暮らしには十分。
オートロックはついていないけど、一目見た瞬間から気に入った。
何よりそのアパートの天井は高くて、珍しい事だが天窓がある。
星でも見れたら最高なのだけど、東京のくすんだ空からは見えそうにない。それに視力は悪い方だ。
それでもいい。目には見えなくても、目に見える物だけが大切じゃないという事はとっくに知っていたから。
ペットは不可。
だけども、琴音以外の猫を飼う気も起らなかった。
だってあの子は、ハルと同じくらいわたしにとっては特別で
この世で代わりのない愛しい存在だったから
あの子と暮らした1年間。沢山沢山大切な物を貰った。
6月いっぱいと決めていたリップス勤務。
それもかなり日数を減らしていた。 ハルにはまだ告げていなかった。どう伝えたらいいのか分からなくて
ハルにとってわたしが風俗を辞めようが続けようが関係ないんじゃないかなと思ったら、何故か口には出来なかった。
そして、新しい仕事を決めてきたのだ。先日面接に行って、採用通知を貰った。正社員ではない。けれど、頑張れば正社員の道もある、と言われた。
決して大きくはない、ペットサロンとペットホテルを経営している個人会社。
そこにオーナーが趣味で飼っている数匹の猫がいて、昼間は猫カフェとして併設されている。
わたしは主にそこで受付と猫のお世話。
そしてペットサロンとホテルの補助的なお手伝いをするという事で採用された。