【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「琴子の前の家はごみ屋敷だったしね~さすがに住めたもんじゃなかった。
しかもあのボロアパートを追い出されるとかよっぽどだと思ったし!」
「もぉ~…これでも少しは変わったんだから…」
ぷぅっと頬を膨らませて拗ねて見せると、ユカリは頬杖をつきながら優しい瞳をする。
美人が笑った顔って最強だな、なんて意味の分からない事ばかり思考をめぐる。
わたしが例えばユカリくらい綺麗な人で、もい少しだけ身長が高くてスタイルが良ければ、ハルに気持ちを伝えられたかもしれない。
…なんて言い訳、見苦しい。
「そんなん、知ってるよ。
琴子は変わった。
今の琴子はあたしの知っている琴子じゃない。
でもそれって全部、井上さんのお陰だと思ってる。…違う?」
ユカリの言ってることは全部的を得ていて、何の反論の余地もない。
わたしが猫カフェで働こうと思ったのも
料理が好きになったのも
人並みの部屋に住めるようになったのも
全部全部それはハルが居てくれたから。
「違わない…」
さっきまで笑っていたユカリが、途端に心配そうな声色になって
少しだけ肩を落とした、ようにわたしには見えた。