【完】ボクと風俗嬢と琴の音
そこかしこに、ハルとの思い出が溢れている。
この1年間の思い出。ぎゅっと胸を締め付けられる気持ちになったけれど、ふと見上げた空には燦燦と太陽が輝いているから
きっとこの街ではなくても、太陽を見れば何度でもハルの笑顔を思い出せると、思った。
家に帰って来て琴音にご飯をあげて、自分も軽くお昼ご飯を食べた。
お腹が満たされたからなのか、ゲームをしながらうたたねをしてしまったようだ。
インターホンが鳴ったのに気づいて、飛び上がるように起き上がった。
わたしの隣にあったハルの座椅子で共に寝ていたであろう琴音が、耳をピクピクと痙攣させて瞳孔の開かれた真っ黒な瞳で玄関のドアの方をジーっと見つめていた。
握りしめていた携帯の時刻を見ると、まだ午後1時過ぎ。…ハルが荷物でも頼んだのだろうか。
琴音を抱き上げてインターホンのカメラを見たら、驚きで暫く瞬きすら出来なかった。
カメラ越しに、見た事のある顔。
知っている顔。
サラサラの栗色の長い髪に、整った顔立ち。
零れてしまいそうな大きな瞳が、伏し目がちに視線を下へ落としている。
何で………。一瞬困惑して、鼓動が上下に激しく動いていく。
「あのー…」
「あ、すいません。山岡です…。山岡美麗です…」
そんなん、顔を見れば分かる。
カメラ越しの彼女は、大きな瞳を揺らしながら自分の名前を告げた。