【完】ボクと風俗嬢と琴の音

何で?
何の為に?
わたしに用事があってここに来たというのだろうか。
彼女はコーヒーを一口すすって、重い口を開いた。


「勝手な事とは思うんですが、井上さんに用事があると営業部の方に言って住所を聞きました。
彼の家なんて、わたしは知らないので。
ちょっとストーカーみたいですね、わたし」


「そんな……」


「晴人くんではなく、あなたに用事があったので。
今日晴人くんが会社に出勤してるのも本人から聞いているので、わざとその時間を狙ってきました」


少し苦笑いを浮かべながらも、はっきりとした口調で
それでも彼女が何をしにわたしに会いにここへ来たのかは、分からない。
理解に苦しむ事ばかりだ。


「単刀直入に聞くのですが、琴子さんは晴人くんの事をどう思っているんですか?」


いや、それは直球すぎるでしょ。
大体わたしの気持ちなんて、山岡さんに関係ない。


「どうって……」


「わたしは、晴人くんが好き」


ハッキリとそう告げた山岡さんの大きな瞳が
わたしを見据えていた。

そんなん知ってるよ。言葉を探しながら彼女の大きな瞳を見つめ返す。本当に綺麗な顔立ち。ハルと隣に並んでも何も引けを取らないような人。
全然違う事を考えながら、彼女の美しい顔に見とれていた。
思わず目を逸らしてしまった。視線を斜めにずらして、彼女の質問に答える正しい正解を探していた。

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