【完】ボクと風俗嬢と琴の音
20.晴人「ありがとうも言わせてくれなかった人」
20.晴人「ありがとうも言わせてくれなかった人」
「ペット可で、この条件は中々ないと思いますよぉ~」
張り付けられた笑顔で、不動産会社の営業マンがとある物件を紹介してくれた。
6月。
本格的に始めた新居探し。全然乗り気もせずに始めたくせに、条件にぴったしの物件が1件目で見つかるとか、出来すぎだろう。
困り果ててた1年前は血眼になって探していたって、3か月見つけられなかった物件がたった1件目でとか。
「ちょ~ど空いたんですよ~。
お客さん運いいですね。
強運の持ち主だ。中々ありませんよ~ペット可だとなおさら難しくなってきましてねぇ~」
あれだけ求めていた物件が
こういう時に限ってすんなり見つかってしまう運命を前に
「少し考えさせてください」と営業マンに告げた。
決めてしまえばいいのに。
それが出来ない理由がある。
琴子は何も言わなかったけど、着々と引っ越しの準備を進めているのは
何となく分かっていた。
でもこの家から出た後の引っ越し先は言わないし、こちらからも聞かない。
それがふたりのため、だと思った。