【完】ボクと風俗嬢と琴の音

自信がなかった。
俺をお兄ちゃんとしか見ていない琴子と同居を解消したって、時折会ってもいいとは思う。琴子だって、きっと琴音に会いたいだろうし。
けど、それは考えられなかった。何となく琴子はそうはしないと思ったし、同居を解消した時点で、俺と琴子はもう会う事もなくなるんだろうと。



俺は木村さんのようにはなれない。
大好きな想い人と友達として過ごしていく事。
そういう恋がある事は知っていた。
けど
そんなの自分には出来ない。




「この小説超泣ける……」


いつもと同じ夜。
ふたりと一匹。思い思い過ごす夜。
琴子が読んでいる小説はこの間書偶然見つけた物で、音楽を愛するすべての人へ捧げるという謳い文句に惹かれて購入したものだった。
俺は別に音楽を愛する人間ではなかったけど、全く期待せずに読んでみたら思いの外良かったもんだから、琴子にこの小説良いよって勧めた。
自分が良いと思った物を人にも良いと思って欲しいなんて感情ただのエゴだと思っていたけれど、目を真っ赤にして鼻水を垂らしながら号泣する琴子を見ていると、それって悪いもんじゃないなって思う。


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