【完】ボクと風俗嬢と琴の音
してやられた。
不覚だ。
まさか泣いてしまうとは。
最近涙腺が緩くなってるせいもあるのかもしれない。
ヒロインが不治の病に侵されている。よくある設定の中で
主人公とヒロインを巡った複雑な人間模様が交差する。
映画の四角い画面の中で、わたし達のような普通の人間が体現出来ないようなドラマチックな展開が広がっていく。
気が付けば、売店で揉めたキャラメル味か醤油バターかのポップコーンは、空になっていた。
結局はハーフにする事で落ち着いたのだけど。甘いものを食べればしょっぱいものが食べたくなるのは人間の性らしく、結果的にはハーフにして良かった。
「すっごくいい映画だったね!」
映画館を後にしてその余韻も覚めやらぬうちに近くにあったカフェに入った。
ハルはコーヒーが好きだから、結構カフェが好きだ。そこでも彼はアイスコーヒーを頼んだ。
「そうかぁ~?」
「あ、泣いてたくせにッ」
「な、泣いてねぇよ!」
照れくさそうにコーヒーをすすったハルの頬が少し赤らんでいた。
「パンフレットも買っちゃってさぁ~」
「これは加藤裕くんが好きだからいいのだぁ~
裕くん、やっぱりめっちゃかっこよかったなぁ。あんな演技も出来るなんて、この作品で幅も広がったよ」
「何をえらそうに。
映画評論家か。
途中までは良かったけど、最後の結末があんまり好きじゃなかった」