【完】ボクと風俗嬢と琴の音
立っているだけでも汗が滲み出てしまう季節の中で
ショッピングモールは冷房が効いているはずなのに、休日という事もあってか人の熱気でお店はサウナ並みに蒸されていた。
あちこちのお店で夏物の衣類が所狭しとひしめきあっていて、あぁもう夏なのだなと改めて気づかれる。
あれも欲しい、これも欲しい、我慢なんて出来ない。1年前の自分だったら欲しいと思う物にすぐに飛びついていた。


けれど何故、全てが色褪せて見えるのだろう。


「ねぇ、これ琴子に似合いそうじゃない?」


ハルが手に取ったのは、夏らしい淡いグリーンのサマーセーターで
いつからこの男はこういう事を口にするような男になったのだろう、と可笑しくなる。
昔一緒に人混みのショッピングモールに来た時なんてどこか挙動不審で、人波の中ずっと帰りたそうにしていた男が


「えぇそうかなぁ?でもちょ~可愛い~」


「買ってあげようか?」


「いや…いいやぁ…
あたくしめはこれからはもうちょっと大人めお姉さんを目指そうと思っておりまして」


「ぶ、大人めお姉さんって
似合わないよ」


「ひどッ!そこまでハッキリ言わないでよ!」


「これも、あれも琴子にすごい似合いそうだ」

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