【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「じゃあ伊勢丹でも行こうか」
本気で行こうとしたハルの腕を掴み、引き止める。
振り返ったハルの表情は、今にでも泣き出しそうだった。
何でそんな顔するん?
わたしよりも20センチ以上も背が高い大男のくせに、その表情はまるで小さな子供みたいだった。
「本当にいいっていってるやん…」
「でも何か買ってあげたいんだ。琴子の好きな物、何でも…
俺…何にもしてあげられなかったと思うし、最後くらいさ…」
ハルの言った’最後’という言葉が重い鉛のように胸にのしかかる。
最後って、こんなに悲しい言葉なんだ。どんな事柄にも必ず終わりがある事は分かっている。
でもこんなに胸が締め付けられて、苦しくて、息を吸うのも忘れてしまいそうなくらい、悲しい最後はないよ。
「ハルには沢山の物を貰っているよ…。
誕生日だってクリスマスだってケーキ貰ったし…
たこ焼きキーホルダーも
ふわふわのパーカーも、イルカのぬいぐるみだって」
「それは…なんかあのプレゼントってテキトーだったろ?」
「適当でも嬉しかったよ。
それに貰った物は形のあるものだけじゃなかったよ。
あたしはハルから沢山の優しさを貰った。お金じゃ買えない物ばかりだよ」