【完】ボクと風俗嬢と琴の音
それから――――――
7月になるまで
わたし達は互いにもう出ていく日の話は一切しなくなった。
着々と引っ越しの準備も進んでいったけれど、それに関してハルは何も言わなくて
不自然なほど、自然な毎日を過ごしていた。
ハルの方も引っ越しの準備をしているのかな?と思っていたけれど、いつも開けっ放しのハルの部屋からは引っ越しの準備の気配すら感じなかった。
あえて口にはしなかったけれど。
驚くくらい、普通の生活をしていたのだ。
空に雲が連なって浮かぶような
川に水が自然に流れるような
それは、どこにでもありふれている風景で
そして確かに、特別な物だった。
朝起きておはようと言い合って
互いにいってらっしゃいと言い合い
夜はわたしかハルどちらかがキッチンに立って、何気ない会話をしながらご飯を食べる。
その間にはいつだって琴音がいて、愛らしく鳴いて甘えてきたかと思えば、すぐにツンと顔を背けてどこかへ行ってしまう。
楽しい映画があったらそれを借りて、ハルが小説を読んで、わたしが携帯でゲームをする。
時々話して、沈黙の時間もそれなりにあって、でもハルは何か新しい発見をするとあの柔らかい笑顔をわたしへ向けて、優しい言葉ばかり並べるのだ。
どちらともなくお休みと声を掛けて、琴音は今日の寝床を探す。
そうやって夜は更けて行って、そして朝が来る。