【完】ボクと風俗嬢と琴の音
何か予感はあったのかもしれない。
けれど悟られないように笑顔を作った。
最後に見せるのが泣き顔じゃあ、決まんないしね。
わたしはあの映画のヒロインのようにはなれないけれど、それならばせめて最後の記憶に残るものが
ハルの好きだといってくれた笑顔であらねばならない。
「仕事頑張れよーーーーー!」
「わっ!いきなり大声出すな、鼓膜が破れるッ」
「ハハ、やわな鼓膜してんじゃないよ!」
「琴子は声がデカすぎる」
そんな何気ない会話を交わして
わたし達の最後は、終わった。
午前中から引っ越し業者が入り
2時間ほどで全ての作業が完了した。
業者が入っている間琴音はずっと気配を消して隠れていた。
ぽっかりと空いたわたしの部屋の中に琴音がやってきて、くんくんと部屋中の匂いを嗅いでいた。
何もなくなった部屋。
最初からまるで何もなかったようにぽっかりと空いた穴みたいに
それだというのに琴音はいつものように赤い首輪についている鈴を鳴らして、とことことわたしの方へ歩いてきた。
そしてフローリングの上に座り込むわたしの隣でゴロリと寝転び、お腹を見せる。
さっきハルを見送ったのと同じようにゴロゴロという喉の音が少しずつ大きくなっていく。
陽があたるフローリングの上で、気持ちよさそうに身体を右へ左へくねらせる。わたしが喉元を優しく撫でるとまるで「うれしい」とでも言わんばかりに目を細めて気持ちよさそうに喉を鳴らすんだ。