【完】ボクと風俗嬢と琴の音
猫は うれしかったことしか覚えていない。
大好きな飼い主が帰ってきた時
ご飯をもらう時
遊んでもらう時
一緒に眠る時
愛されてると実感する時
きっと琴音の記憶の中に沢山ある。
もしかしたら、何日もわたしが帰ってこなかったら寂しく思う日も来るかもしれない。
でも時間が経つごとにその寂しさも薄れて行って、いつか琴音の中にあるわたしの記憶も消えてしまうんだろう。
ハルと、そしてこれから出会う人との思い出で上書き保存されていって、わたしがいた事も忘れてしまう。
悲しい事じゃない。
大好きな琴音に悲しい日など訪れて欲しくない。
可愛いあの子の記憶が嬉しさや優しさだけで包まれてくれるように
願う事しか出来ない。
6月の終わり。
顔を見てさようならをどうしても言える自信がなくて
わたし達の同居生活は、あっけなくここで終わった。