【完】ボクと風俗嬢と琴の音

「じゃあ、行ってくるね」


「にゃ~ん」



’いってらっしゃい’
目を閉じれば、琴音を抱いて大きな口を横に拡げて言ってくれた彼女の顔ばかり瞼の裏に浮かぶ。


結局7月を過ぎてもこのマンションから出ていく事はなかった。


不動産屋で見つけた新しい物件。
ペット可の1LDKの条件にぴったりと当てはまるマンション。
1年前の俺が求めていた最良の物件。
こんな良い物件中々見つかりませんよ~と営業マンは言っていたけれど、断った。

どうしてもこのマンションを出ていく気にはなれなくて
ここは思い出が多すぎる。彼女と過ごした1年間はよくある毎日の日常に過ぎなかった。
けれど、彼女が入り込んでからの毎日は俺にとっては特別な物だった。




贅沢をしなければこのマンションで暮らして行く事はひとりでも出来る。
俺はずっと待っていたのかもしれない。
ある日まるで何もなかったかのように帰ってきて、おかえり~と笑顔で迎えてくれる彼女がこの家にいる事を
そんな事絶対にない、心のどこかでは分かってたはずなのに、どうしてもこのマンションを引き払う事が出来なくて



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