【完】ボクと風俗嬢と琴の音
俺は相当変な顔をしていたかと思う。
ヘラヘラと木村さんに媚びる優弥と
優弥をいつものように鋭い視線でギロリと睨む木村さん。
交互に見て、首を傾げた。
「だから俺、さっきお前に言っただろ。
びっくりしたよなぁ、まさか木村さんがまさか結婚とはなぁって」
そこまで言って、木村さんは再び冷たい瞳で優弥を睨みつけた。
「ヒィッ」とまた小さく声を上げて、優弥は事業部に用事があるので失礼します、と木村さんへ頭を下げると逃げるようにオフィスから去って行った。
「なんだ、あいつ」
優弥の後ろ姿を見送って
疑問だらけの俺は木村さんに問いただした。
「木村さん、結婚って…」
「あぁ、そうなんだよ。
まさかこのあたしが結婚するとか自分でもびっくりなんだけど」
少しはにかんで笑った木村さんは、言葉とは裏腹に嬉しそうだった。
「例の、片思いの彼と、ですか?」
「まぁね。
ずっと友達だって側にいれればいいって自分に言い聞かせてたけど
この間酔った勢いで言っちゃったんだよなぁ。不覚って感じではあるけど、だって酔ってたから何も覚えてないんだもん…」
「あぁ…木村さんって酒癖悪いですからね」
「なんだと?」
「な、なんでもありません。
それで?」
「次の日、昨日の夜の事を聞いたら穴に入りたいくらい恥ずかしかったんだけどさ
彼も自分もずっと同じ気持ちだったって。でも麻子には仕事もあったしって…
バッカみたいよねぇ~。お互い何年も同じ気持ちでいたのに、随分遠回りしてきたもんだ」