【完】ボクと風俗嬢と琴の音

ラインと携帯番号全部変えた。
だってこれがあったらうっかりハルに連絡しちゃって、うっかり自分の気持ちを伝えてしまうかもしれない。
それにハルから用事があったのだとすれば、少し考えれば優弥さんからユカリへ繋いでくれるはずだ。
けど、この3か月なんの連絡もなし。分かってはいたことだけど、自分で決めたくせに、自分から自分勝手に連絡を絶ち切っておきながら、なんという愚かな感情だ。これは。


きっと、山岡さんと上手くやっているよ。
わたしの入る隙なんてない。
それがハルにとっての幸せなのだから。


「やべ!時間っ」


鞄の中に携帯と財布を詰め込んで
冷蔵庫に昨日作っておいたお弁当を取り出す。

「いってきます」


玄関の靴箱の上に置いてある、琴音に似ている置物。
ハルから貰ったプレゼント。
けれど、当たり前のごとく冷たいただの置物の琴音に似た猫は、わたしにうんともすんともニャンとも応えてはくれない。
けれども、朝のご挨拶は、未だにわたしの心を柔らかくしてくれる。



朝の通勤ラッシュには未だに慣れない。
小さなわたしは、押しつぶされないように毎日が戦争だ。
この線は、ハルの通勤電車でもある。
けれど、大都会東京では、どうやら見つけられそうにもないのだ。
それでも背の高い人を見つけると、思わず振り返ってしまう。

そう考えたら、あの日何でもないような合コンでハルに出会えたのは、奇跡の確立だ。
そして、あの1年は、奇跡以上の神様からの贈り物だった。

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