【完】ボクと風俗嬢と琴の音
言いづらそうにユカリがその名を口にした。
ハル。
ハルに会いたくない日なんてあれから1日だってない。
忘れた時なんて、欠片もない。
毎日毎日、ハルと話していた事を思い出して、ハルと読んだ小説を思い出して、ハルと見た映画を思い出す。
ハルはもういないのに、未だにわたしの生活の中にハルは常にいた。
「ハルはきっと、今は幸せだよ。
山岡さんときっと上手くやってると思う。
それならそれでいい。あたしはハルが幸せならそれでいいの」
「琴子、それ本気で言ってるの?」
わたしの心の中はぐちゃぐちゃだった。
山岡さんへの嫉妬と僻み。自分への劣等感。
そんな汚い自分の感情を知っているから、せめてハルの幸せくらいは願える人間になりたいって。
何度も何度も自分に言い聞かせた。けれど、ハルへの想いは消えてくれはしなかった。
友達としてならやっていけたかもしれない。
時たま琴音に会いに行って、他愛のない話をして
それでもハルの隣に山岡さんがいたら、わたしは上手く笑える自信がなかった。
その態度がまたハルと山岡さんを傷つけてしまうかもしれない。
好きな人に振り向いてもらえなかったとしても、せめて好きな人の幸せを願えるような優しい女の子でいたかった。