【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「なんだ、お前?!」
「何や?やると?!」
立ち上がって早瀬を睨みつける琴子の、言葉が変わっていた。
…これは、博多弁か?!
馴染みのない言葉に一瞬パニくったけれど
そんな事を考えている余裕もなく、皆が立ち上がった早瀬を止めに入ろうとする光景を見て、ハッとして
俺は次に自分でも考えられない行動を取っていた。
自分より何倍もデカい男に少しも怯まずに立ち向かっていこうとする琴子の手を取り
走り出していた。
女の子と手を繋ぐなんて、高校生ぶり。 なんて言ってる場合じゃなくて
俺の手の中におさまった琴子の手は、驚く程小さかった。
「なんしよっと?!」
「いいから!出るぞ!」
目が合うと、琴子は目を見開いて驚いている。
けれどもっと驚いてるのは誰でもない、自分自身だ。
大都会、東京。
土曜日の繁華街は人で溢れていて
それをすり抜けていくように、走り出す初夏の出来事。
俺たちは、この日出会った。どこにでもある合コンで
漫画やドラマのようなロマンチックな出会いとは言い難いけれど
正反対で
でもどこか似ている部分もあった。
そんな君との出会いは、変わり映えのしなかった俺の人生を
少しずつ変えていってくれたんだ。
そんな出会いになるなんて
この時は気づきもしなかった。