【完】ボクと風俗嬢と琴の音
ひとりぼっちの1Rは、いつだってぽかりと穴が空いたようだった。
この灯りのともっていない部屋は、何故か薄寒い。真夏だって、夜だけは何故か寒い。
ここには、笑ってわたしを出迎えてくれるハルはいない。
すり寄ってきて、肩に登る生意気な猫もいない。
あるのは、冷たい置物だけ。
わたしの想いも気持ちも、あの暖かいマンションに置き去りにしてきた。
もう戻る事のない。もしかしたら、もう違う人が入居したかもしれない、あのマンションに。
それしか出来なかった。そうする事でしか、あの時の自分を守る事が出来なかった。
’琴子ー!’
わたしの名を呼び、柔らかい笑顔を向けるハルはどこかへ消えてしまった。
’にゃ~ん’
ってお出迎えしてくれる琴音も、消えてしまった。
ここには何もない。
何もなくなった部屋に、それでも何度も何度も耳を澄ませて
あの声を声色を探してしまう。
ここにないって分かりながらも、探さずにはいられない。
それでも家の電気をつけたらやっぱり薄ら寒い風のみが通り過ぎて行った。