【完】ボクと風俗嬢と琴の音


心がほっこりとしそうなお話し。
夕焼けでオレンジ色に染まった空に色々な色が交じり合って
とろりと今にも落ちていきそうな空を見つめながら、子猫の話をする大輝の顔は優しさそのものだった。


「つまりは、可愛いと」


「この俺が猫を可愛いだと?!
アレは猫ではないんだ、きっと…。
雪はきっと特別なんだ」


「雪って言うんだぁ!可愛いねぇ!
雄猫?!」


「あぁ、雄らしい」


「ハルが言ってたよ!雌猫より雄猫の方が人懐っこいんだって!」




ハル、と名前を出した瞬間ハッとした。
嫌だな、こんな時でもいつだってハルの事を思い出しちゃうのは。
未練がましいというか、なんというか。
実際未練がましいのだ、わたしは。
ぎゅっと手のひらの中のキーケースを握りしめる。もう使えなくなった合鍵だってこうして捨てられずに持っている。


誤魔化すように、オレンジ色に沈みゆく空を見つめていた。
海の水で濡れたはずの洋服は、すっかりと乾ききっていた。僅かに潮の香りが残るばかり。
大輝は真っ直ぐと前を向いていた。こちらを一切見ずに夕陽に向かって話し始めた。


< 589 / 611 >

この作品をシェア

pagetop