【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「大切な人に、大切な言葉は伝えられたか?」
「伝えた。自分の気持ちだけは伝えずに、ただただ相手が大切だって事は伝えた。
それしかあたしには出来ないよ…」
「それで悔いはないか?」
悔い?
悔い、とは?
わたしはハルが大切な人だという事を伝えた。
お兄ちゃんみたいに大切な人だ、と。
それで十分だと思っていた。
だって本当の気持ちを伝えたら、それはそれでハルの未来をきっと邪魔してしまう事になる。
ハルにはハルにお似合いの素敵な人と幸せになる結末が訪れるように、と。
ハルの幸せを願って、だってわたしがハルの周りをうろちょろしちゃったら、優しいハルの事だから、絶対に見捨てられないんだ。
困った捨て猫を見捨てられないように
わたしに同情して、可哀想だって思って、足手まといであっても拾ってしまうんだ。
だからこそわたしはそんなハルの優しさに甘えたくなかった。
本当はもっと伝えたい言葉があった。
誰よりも好きだという事。
これからもずっと一緒にいたいって、隣で笑っていたいって
ハルに抱きしめられて眠る夜を何度も超えていって、大好きだよって何度でも伝えたかった。
けど、そんな資格はわたしにはない。